収縮・拡張期血圧
血圧は、血液が血管の壁を押す力です。心臓が縮んだときが収縮期血圧(上の血圧)、広がったときが拡張期血圧(下の血圧)です。健診で最も多く指摘される項目の一つですが、高くても自覚症状はほとんどありません。頭痛やめまいが出るのは、かなり高い場合か別の原因によることが多く、症状の有無では判断できません。診察室と家庭で基準が異なるのも、この数値の特徴です。
疾患との関連
高血圧の原因の一つとして肥満が重要であり、BMIを25以下にする体重管理が重要です。運動による消費カロリーが食事による摂取カロリーを超えるよう、運動も食事も自身が継続できることを選択することが重要です。運動としては1日30分以上毎日(少なくとも週3回以上)、有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)が勧められます。食事としてはカロリーの適正化(標準体重×25kcal)と適切なPFCバランス(炭水化物50-65%、タンパク質13-20%、脂質20-34%)が薦められます。さらに塩分の過剰摂取が高血圧の原因となりますが、日本人の通常の食事、特に外食では1日塩分量が10gを容易に超えてしまい血圧が上昇する状況にあります。まずは一食分の塩分を控えることから始め、醤油や加工製品などを減らすよう努力してください。
望ましい生活習慣
収縮期血圧、拡張期血圧いずれも高血圧で上昇しますが、特に収縮期血圧の高値は危険性が高いと考えられています。血圧は血管の硬さや血液量によって決まり、加齢や動脈硬化によって血管は硬くなり、塩分摂取の増加により血液量が増えます。日本人では約4割が高血圧を有するとされ、もともと血圧が上昇しやすい傾向にありま す。自宅で安静(座位でリラックスした状態)を保ち、起床時に複数回測定した平均値が収縮期135mmHg、拡張期85mmHg以上で高血圧と診断されます。血圧は緊張や興奮によっても上昇しますので、最もリラックスした状態での測定が重要です。リラックスした状態での血圧高値が続くと、血管への負担が増し、肥満、糖尿病、脂質異常症のある場合はさらに危険性が高まりますので、生活習慣の見直しが必要になります。また、睡眠時無呼吸症候群の方でも血圧が上昇しますので、チェックしてみてください。
増田大作 Daisaku Masuda, MD, PhD 地方独立行政法人りんくう総合医療センター 循環器内科 部長 兼 先進医療開発センター センター長
コラム
血圧を気にされている方は多いでしょう。私もその一人です。数年前に高血圧症と診断され、毎日降圧剤を飲み続けています。高血圧症とはくり返し血圧を測定した際に収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(最低血圧)が90mmHg以上である状態とされます。日本人の約3人に1人、4,300万人が高血圧とされています。また収縮期血圧130?139mmHg、または拡張期血圧90?89mmHgの範囲は「高値血圧」として、高血圧症の予備軍として注意喚起されます。
血圧も、他のあらゆる身体的な測定値(身長のような)と同じく自然な個人差があり、それはたいがい正規分布しています。身長が2mあるからと言って、それを高身長症と呼んで疾患とはみなさないように、血圧にもその人なりの自然なセットポイントのではないか、それを一律に140mmHgなどとカットポイントを設けて、無理やり病気を創り上げているのではないかと、実はしばらくいぶんかしんでいました。
しかしながら調べてみますと、そもそも収縮期血圧が高いほど脳卒中・心筋梗塞などの循環器疾患リスクが直線的に増えることが、疫学研究で明らかにされています。逆に言えば特定の「閾値」があるわけではなく、120でも130でもリスクはゼロではないのです。つまり数字が高くなるほどリスクが上がる「連続的関係」があるのです。国際的に疫学データをまとめた結果、「140/90」を超えると脳卒中・心血管疾患の発症率が統計的に有意に高まることが示されています。そのため「診断・治療の目安」として140/90が基準になっています。たとえば米国心臓協会(AHA)は2017年に130/80以上を「高血圧」と定義しましたが、これはリスク評価をより厳密にした結果です。
身長や体重は「高い/低い」で病気と直結しませんし、IQなどはふつう高いほどいいとすら考えられています。しかし血圧は「動脈硬化・脳血管障害・心臓病」と直接結びつく「リスク因子」です。ですから「その人にとって自然な血圧の高さ」であっても、統計的に疾患リスクが高まる水準であれば「高血圧症」と呼んで予防・治療を行う必要があります。言い換えると、「一律140」というより「リスクを減らすために臨床的に便宜上設けた閾値」なのです。
血圧の遺伝の影響を双生児法で調べた研究をまとめた分析(Wang et al., 2015)によると、収縮期血圧の遺伝率は0.54、拡張期血圧では0.49で、環境要因はもっぱら一人一人に固有な非共有環境で、一緒に育ったことによる共有環境の影響は無視できる程度しかありませんでした。
また多数の人の全ゲノムを調べ、血圧と関連する遺伝子変異(SNP)を特定するGWAS(ゲノムワイド関連解析)という手法があります。それによって特定された複数の高血圧関連の遺伝子変異の影響度を合算して「遺伝的ななりやすさ」を示す指標を作り上げます。それがPolygenic Risk Score(多遺伝子リスクスコア)です。高血圧症に関しては数百の関連遺伝子が発見されており、アジアを含む大規模な国際共同研究が進行中です。
特に日本人を含む大規模調査で、Polygenic Risk Score(PRS)が高い人ほど高血圧や循環器疾患を発症しやすいことが示されています。例えば、収縮期血圧のPRSがもっとも高い上位10%グループは、中程度リスクの人に比べて心血管疾患による死亡リスクが約3.7倍高い結果が報告されています(Fujii, et al, 2022; Fujii, et al. 2024)。
このように高血圧に遺伝要因がかなり関わっており、その人に遺伝的セットポイントがあることことは確かです。しかし初めに示したように、その人なりにできるだけ血圧を低く保つことが健康のためには必要であることは間違いがありません。そして遺伝率が50%程度ということは、環境要因もまた遺伝要因と同程度に関わっていることを意味します。それが家族が今共有しているような環境(たとえば食べ物の塩分など)が少ないとすると、PRSが高く遺伝的リスクが高い人も、あなた独自の環境や生活習慣の中で、血圧に関わる要因(たとえば家族の中で、あなただけがしょっぱいものが好き、たばこ好き、運動不足、不規則な生活習慣など、ありませんか)をみつけ、それを控えることでリスクを軽減できるでしょう。
- Fujii R, et al., (2022) Associations of genome-wide polygenic risk score and risk factors with hypertension in a Japanese population. Circ Genom Precis Med.;15:e003612.
- Fujii R, et al. (2024) Polygenic risk score for blood pressure and lifestyle factors with overall and CVD mortality: a prospective cohort study in a Japanese population. Hypertension Research, 47, 2284?2294.
- Wang, B., Liao, C., Zhou, B., Cao, W., Lv, J., Yu, C., Gao, W., & Li, L. (2015). Genetic contribution to the variance of blood pressure and heart rate: A systematic review and meta-regression of twin studies. Twin Research and Human Genetics, 18(2), 158?170. https://doi.org/10.1017/thg.2015.8
慶應義塾大学名誉教授 安藤寿康
PGSについて
米国ハーバード大学公衆衛生大学院およびブロード研究所、大阪大学大学院医学系研究科を中心とする国際研究チームは、多様な祖先集団のゲノムデータを組み合わせて多遺伝子スコアの予測精度を高める新しい統計手法を開発しました。それは機能アノテーション情報を活用したファインマッピング(原因となる遺伝子多型を絞り込む統計手法)により推定した効果と、既存手法による効果を組み合わせるものです。さらに、対象集団において十分な規模の学習データが得られる場合には、その集団自身のデータも組み込むことで、より高い予測精度が得られることが示されました。日本のバイオバンク・ジャパンのデータを学習に組み込み、血圧や血糖値関連指標、脂質関連指標を含む23種類の形質について日本人集団で検証したところ、従来法と比較して約24%の予測精度の改善が確認されました。
Weissbrod O et al., Nat Genet; doi: 10.1038/s41588-022-01036-9.
小島(桂川)直樹
