空腹時血糖値
空腹時血糖値は、食事から時間が経った状態で測る血液中のブドウ糖の量です。健診では10時間以上の絶食後に採血します。HbA1cが1〜2か月の平均を示すのに対し、こちらはその瞬間の状態を示します。役割が異なるため、両方を見ることで血糖の状態が立体的に把握できます。境界域の段階では症状が出ないため、健診で気づけることに価値があります。
疾患との関連
空腹時血糖値は食事に含まれる糖質量や体が血糖を下げる働きによって変動します。HbA1cは過去2~3ヶ月の血糖の推移を示します。空腹時血糖126mg/dL以上、HbA1c6.5%以上の場合は糖尿病の可能性があります。これらを指摘された際は、専門医の受診をお願いします。
糖尿病は、脳心血管疾患(心筋梗塞・狭心症や脳梗塞)や心不全、腎機能低下の原因となり、さらに視力低下や神経障害につながることがあります。脂質異常症、高血圧や腎障害などの有無も併せて確認し、生活習慣の見直しや適切な管理が必要になります。
望ましい生活習慣
BMIを25以下にする体重管理が重要です。運動による消費カロリーが食事による摂取カロリーを超えるよう、運動も食事も自身が継続できることを選択することが重要です。運動としては1日10分以上から開始し少なくとも週3回以上30分以上(週2.5時間以上)の運動が有効です。有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)が勧められます。食事としてはカロリーの適正化(標準体重×25kcal)と適切なPFCバランス(炭水化物50-65%、タンパク質13-20%、脂質20-32%)が薦められます。食物繊維を積極的に摂り、糖質や脂質の過剰摂取を避けること、ゆっくりよく 噛んで食べ血糖値の急上昇を抑えるなど配慮しましょう。
増田大作 Daisaku Masuda, MD, PhD 地方独立行政法人りんくう総合医療センター 循環器内科 部長 兼 先進医療開発センター センター長
コラム
「糖尿病はこわいぞ。目は見えなくなる、足が腐って切断しなきゃならなくなる」と、私は子どものころからおどかされていました。私の父も晩年は腎臓病と糖尿病が併発し、一日おきに透析の生活でした(わが国で透析導入の原因疾患の第1位が糖尿病性腎症なのだそうです)。しかも認知症でもあったため、体に目に見える異変のない、いわば化学的な疾患であることが理解できず、半日もベッドにしばりつけられる透析治療に行くのをしばしば拒み、家族として苦労したことが思い出されます。今年話題になった映画「国宝」でも、この疾患の悲劇が克明に描かれ、ストーリーの緊張を高めていました(ご覧になっていない方には、ネタバレさせるといけないのでこれ以上言いません)。
糖尿病とは「インスリン」というホルモンがうまく働かないことで起こる疾患です。インスリンは膵臓から分泌され、血液中のブドウ糖(血糖)を膵臓、筋肉、脂肪組織に取り込みグリコーゲンに変える働きをします。これによって血中の血糖値を一定に保つ重要な役割を持っているわけですが、それが働かなくなることで血中のブドウ糖が慢性的に高くなってしまうのです。初期には自覚症状がほとんどない場合が多いですが、放置して高血糖状態が続くと、動脈硬化や腎臓病、失明、神経障害、足切断など重篤な合併症のリスクが高まります。ヒトの体がいかに精巧な化学反応から成り立っているかを物語る仕組みですね。
糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病の二種類があります。1型糖尿病は自己免疫反応で膵臓のインスリン分泌細胞が壊されるため、インスリンがほぼ出なくなります。主に若い人に多いですが、全年齢で発症します。一方、2型糖尿病はインスリンはあるにはあるのですが、それが十分に分泌されなかったり、働きが弱くなったりすることで起こり、日本人の糖尿病患者のほとんどが2型です。遺伝的な体質と、食生活・運動不足・肥満などの生活習慣が組み合わさった結果として起こります。いずれにしても欠乏したインスリンを外から人為的に補うべく、注射します。
血糖値や糖尿病にも遺伝の影響が無視できないほど関わっていることが双生児研究から明らかにされています。たとえば154組のオランダの双生児研究では、空腹時血糖値に対する遺伝率(heritability)は38~66% (Simonis-Bikら, 2008)、中国の研究では、382組の双生児研究で同じく空腹時血糖値で一卵性相関:0.68、二卵性0.20で、遺伝率67.6%と報告されています (Wang et al., 2020)。また複数の先進国コホートの34,166組の双生児ペアを用いた2型糖尿病についての国際的メタ分析(DISCOTWINコンソーシアム)によれば、一卵性の相関0.72?0.78、二卵性0.36?0.47、遺伝率は約72%と算出されています。いずれも遺伝の影響がかなり高いことがうかがえます。
近年、大規模な集団を対象に、全ゲノムにわたる遺伝子(塩基)の違い(SNP)と糖尿病の関係を調べるGWASがなされています。特に2型に関しては、これまでに数多くのGWAS研究がなされ、すでに600を超える関連遺伝子座が発見されています(Suzukim et al., 2024)。こうして見いだされた多数の糖尿病関連遺伝子変異(多型)の影響度を合計して、一人ひとりの「遺伝的かかりやすさ」のスコアとしてpolygenic score(多遺伝子リスクスコア)を算出すると、その人の遺伝的な糖尿病発症リスクを予測できます(Huerta-Chagoya, 2025)。こうした研究では、BMIなど生活習慣要因とゲノムデータを組み合わせることで、より個人にあったリスク評価が可能になりました。BMIと遺伝的リスクを組み合わせたpolygenic scoreにより、「やせ型で糖尿病になりやすい体質」も高精度で見分けられるようになっています(Ojima, et al.,2024)。将来的に、得られたスコアや遺伝子型を使って「合併症に強い体質なら薬治療を減らす」など、個人ごとに最適化した予防や治療法(個別化医療)が実現するでしょう。
たとえリスクが高いと判明しても、食事・運動といった生活習慣を整えることで、多くの人が実際の発症を防ぐことができます。ご自身やご家族の健康管理の参考に、信頼できる医療機関で検査や指導を受けましょう。
- Huerta-Chagoya, A., et al. (2025) Multi-ancestry polygenic risk scores for the prediction of type 2 diabetes and complications in diverse ancestries (Preprint). medRxiv, Jul 23;2025.07.21.25331778. doi:10.1101/2025.07.21.25331778
- Ojima, T., et al., (2024) Body mass index stratification optimizes polygenic prediction of type 2 diabetes in cross-biobank analyses. Nature Genetics volume 56, pages1100?1109.
- Simonis-Bik, A. M. C., Eekhoff, E. M. W., Diamant, M., Boomsma, D. I., Dekker, J. M., Heine, R. J., ... & Slagboom, P. E. (2008). The heritability of HbA1c and fasting blood glucose in different measurement settings. Twin Research and Human Genetics, 11(6), 597-602. https://doi.org/10.1375/twin.11.6.597
- Suzuki K., Hatzikotoulas K., Southam L., et al. Genetic drivers of heterogeneity in type 2 diabetes pathophysiology. Nature , 627:347?357 (2024).
- Wang W, et al. "Heritability and genome-wide association analyses of fasting plasma glucose in middle-aged and elderly Chinese twins." BMC Genomics. 2020;21:528.
- Willemsen, G., Ward, K. J., Bell, C. G., Christensen, K., Bowden, J., Dalg?rd, C., ... & Boomsma, D. I. (2015). The concordance and heritability of type 2 diabetes in 34,166 twin pairs from international twin registers: The Discordant Twin (DISCOTWIN) Consortium. Twin Research and Human Genetics, 18(6), 762-771. https://doi.org/10.1017/thg.2015.83
慶應義塾大学名誉教授 安藤寿康
PGSについて
血糖・インスリン関連形質メタ解析国際コンソーシアム(Meta-Analysis of Glucose and Insulin-related Traits Consortium、MAGIC)を中心とする国際研究チームは、糖尿病を有さない最大28万1,416人の個人データ(非欧州系祖先を持つ参加者が約30%を含む)を用いて、空腹時血糖値、経口ブドウ糖負荷後2時間血糖値、HbA1c、空腹時インスリン値という4つの血糖関連形質について、複数の祖先集団を対象としたゲノムワイド関連解析を実施しました。多祖先メタ解析および単一祖先メタ解析により242か所の遺伝子座(うち99か所は新規)が同定され、その80%では祖先集団間で統計学的に有意な異質性は認められませんでした。欧州系集団のみで同等のサンプルサイズの解析を行った場合と比較すると、新規に同定できる遺伝子座が24か所少なくなると推定されており、多様な祖先集団を含めることで、遺伝子座の検出力や原因領域を絞り込む解像度が向上することが示されました。
Chen J et al., Nat Genet; doi: 10.1038/s41588-021-00852-9.
小島(桂川)直樹
