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LDLコレステロール

LDLコレステロールは、血液中のコレステロールを全身へ運ぶ役割を持つ物質です。多すぎると血管の壁に溜まり、動脈硬化を進めます。健診では「LDL-C」と表記されます。この数値の最も注意すべき点は、高くても自覚症状がほとんど出ないことです。何年もかけて静かに進行し、心筋梗塞や脳梗塞として現れることがあります。運動より食事の見直しの影響が大きい数値です。

疾患との関連

LDLコレステロール(LDL-C)や中性脂肪(TG)の高値は代謝障害によるもので、脳心血管疾患(心筋梗塞・狭心症や脳梗塞)の発症につながる可能性があります。特にLDL-Cが180mg/dLを超える場合や、TGが400mg/dLを超える場合は、遺伝的な代謝異常が背景にある可能性があり、心筋梗塞や急性膵炎など命に関わる状態を引き起こす恐れがありますので、専門医への受診をお願いします。

数値が高い場合には、生活習慣の影響を受けている可能性があります。また、脂質異常に加えて肥満、糖尿病、高血圧、腎機能低下などがあるとリスクがさらに高まります。現状のリスクや目指すべき数値の範囲を把握し、生活習慣の見直しや適切な管理が必要になります。

望ましい生活習慣

高LDL-Cの場合にも高TGの場合にも、最終的な目標は体重の管理がまず重要です。消費カロリーが食事による摂取カロリーを超えるよう配慮し適正体重(BMI<25)をめざしてください。脂質異常で起こる脳心血管疾患の予防には運動が有効です。運動も食事も自身が継続できることを選択することが重要で、1日30分以上毎日(少なくとも週3回以上)、有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)が勧められます。食事としてはカロリーの適正化(標準体重×25kcal)と適切なPFCバランス(炭水化物50-65%、タンパク質13-20%、脂質20-31%)が薦められます。高LDL-Cの際には飽和脂肪酸(牛肉や加工肉、乳製品)をさけ、不飽和脂肪酸(魚や海藻類)を摂ること、高TGの際には炭水化物の過剰摂取を避け不飽和脂肪酸(魚や海藻類)を摂ることが重要です。

増田大作 Daisaku Masuda, MD, PhD 地方独立行政法人りんくう総合医療センター 循環器内科 部長 兼 先進医療開発センター センター長

コラム

コレステロールと聞くと、「太る原因」「体の中で静かにたまる爆弾」「健康寿命を縮める影の存在」などと、ネガティヴなイメージを抱く方が多いのではないでしょうか。しかしコレステロールは、細胞膜の材料になったり、ホルモンをつくる基盤になったりするもので、生命活動にとって必要なものです。

このコレステロールを肝臓から全身の細胞に運んでいるのはLDL( Low-Density Lipoprotein)コレステロール、低比重リポタンパクです。またなにごとも過ぎたるは猶及ばざるが如しで、LDLが余分に多いと血管の壁に沈着し、動脈硬化や心筋梗塞などのリスクになるため「悪玉」と呼ばれています。それを回収して肝臓に運ぶ働きをしているのがHDL (High-Density Lipoprotein)、高比重リポタンパクです。それに対してHDLは動脈硬化を防ぐ働きがあるので「善玉」と呼ばれるわけです。

このように、善玉HDLも悪玉LDLもどちらもゼロでは生きていけないもので、いずれも“悪”でも“善”でもなく、要はバランスの問題です。各コレステロールの基準値の範囲として、LDLコレステロールでは60~119mg/dL(140mg/dL以上は異常値)、HDLコレステロールでは40mg/dL以上(34mg/dL以下は異常値)とされていますが、さらにLDLとHDLの比(LH比)にも注意が必要で、LH比=2.0以下ならば健康的(1.5以下なら特に良好)、2.5以上だと動脈硬化や心筋梗塞リスクが高まるので要注意とされています。

脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)などの脂質が基準値を超えて増減する状態を指します。これまでのお話でお分かりのように主に「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールの増加、「善玉」HDLコレステロールの減少、それに中性脂肪の増加などが含まれます。この状態が続くと、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気のリスクが高まります。

ここで大事なのは、なぜ人によってコレステロール値が違うのかということです。食生活や運動などの生活習慣が影響するのはもちろんですが、かなり強い遺伝的要因もかかわっています。双生児研究でも、コレステロールや中性脂肪の値はかなりの遺伝率を持つことが分かっています。つまり、“努力で変えられる部分”と“生まれ持った部分”が両方あるのです。

私たちが考えるべきは、“どちらがどのくらい効いているのか”を科学的に知った上で、個々人が無理なくコントロールできる方法を探すことです。遺伝だから全部あきらめろという話ではなく、むしろ自分の体質を理解して、そのうえで環境を工夫することが、最も効果的な予防につながるのです。

脂質異常症の原因としては、食事や運動不足、肥満といった生活習慣の影響が大きい一方で、遺伝的な要因も重要な役割を果たします。中国人の双生児研究によれば、総コレステロールについては一卵性双生児の相関は 0.61、二卵性双生児 0.35、そこから算出される遺伝率は0.35~0.72、HDL(善玉)コレステロールについては一卵性相関 0.74、二卵性相関0.61、遺伝率0.26~0.79、LDL(悪玉)コレステロールについては一卵性相関 0.65、二卵性相関 0.35、遺伝率0.21~0.46と、いずれも中程度からかなり高い遺伝の影響があることが示唆されています(Liu, et al., 2018)。

近年、GWAS(ゲノムワイド関連解析)という手法を用いた大規模な遺伝子研究が進み、脂質異常症に関わる多くの遺伝子が特定されています。例えば、LDLコレステロールや中性脂肪、HDLコレステロールの値に影響を与える数百の遺伝的変異が明らかになっています(Yamamoto, et al., 2025)。代表的な遺伝子には、LDL受容体(LDLR)、APOB、PCSK9などがあり、これらの変異により脂質の代謝や排出がうまくいかなくなります。日本を代表する大規模バイオバンクである東北メディカルメガバンク機構(ToMMo)ではこれらの遺伝子検査を実際に実施した追跡研究(https:// www. egabank.tohoku.ac.jp/activity/localhealth/rogr/pilot)がなされ、成果が出始めています(Tokutomi etal., 2025)。

さらのGWASで見つかった多数の遺伝的変異を組み合わせてPolygenic Risk Score(PGS)を算出し、個人ごとの脂質異常症リスクを数値化できるようになりました91011。このスコアが高い人は、そうでない人に比べて脂質異常症や動脈硬化性疾患のリスクが高いことが示されています。ただし、PGSが高くても、たとえば全身持久力をバイクなどで高めるなど生活習慣の改善によって。リスクを下げることが可能であることが検証されていますTanisawa, et al. (2024)。今後の更なる研究成果が期待されているところです。

  • Liu, H., Li, D., Ding, H., Chen, C., Wang, W., & Zhang, D. (2018). Heritability and Genome-Wide Association Study of Plasma Cholesterol in Chinese Adult Twins. Frontiers in Endocrinology, 9, Article 677. https://doi.org/10.3389/ fendo.2018. 00677
  • Tanisawa, K., et al. (2024). Polygenic Risk Score, Cardiorespiratory Fitness, and Cardiometabolic Risk Factors: WASEDA’S Health Study. Medicine & Science in Sports & Exercise, 56(10), 2026-2038. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000003477
  • Tokutomi, T., et al. (2024). The Health History of First-Degree Relatives’ Dyslipidemia Can Affect Preferences and Intentions following the Return of Genomic Results for Monogenic Familial Hypercholesterolemia. Genes, 15(3), Article 384. https://doi.org/10.3390/genes15030384
  • Yamamoto, Y., et al. (2025). Dissecting cross-population polygenic heterogeneity across respiratory and cardiometabolic diseases. Nature Communications, 16(1), Article 3765. https://doi.org/10.1038/s41467-025-58149-y

慶應義塾大学名誉教授 安藤寿康

PGSについて

米国ハーバード大学公衆衛生大学院およびブロード研究所、大阪大学大学院医学系研究科を中心とする国際研究チームは、多様な祖先集団のゲノムデータを組み合わせて多遺伝子スコアの予測精度を高める新しい統計手法を開発しました。それは機能アノテーション情報を活用したファインマッピング(原因となる遺伝子多型を絞り込む統計手法)により推定した効果と、既存手法による効果を組み合わせるものです。さらに、対象集団において十分な規模の学習データが得られる場合には、その集団自身のデータも組み込むことで、より高い予測精度が得られることが示されました。日本のバイオバンク・ジャパンのデータを学習に組み込み、血圧や血糖値関連指標、脂質関連指標を含む23種類の形質について日本人集団で検証したところ、従来法と比較して約24%の予測精度の改善が確認されました。

Weissbrod O et al., Nat Genet; doi: 10.1038/s41588-022-01036-9.

小島(桂川)直樹

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